日々是憂日

日々是好日ー人生は好い日ばかりがつづいているかな?をちょっと逆転してみると見えてくる日々のことを綴る

遠き宿

その昔

若かりし日

奈良は

博物館のそばに

あの宿があった。

19歳のある年には

友人と二人

台所に

寝かせてもらったな。

あるときは

ぎしぎしきしむ

二階の部屋で

男たち三人と

泊まったり

したけれど

清潔なままで

夜を明かしたのは

当然のことのようだった。

あるときは

雨で

おかみが傘を

貸してくれて

奈良の街を

心ゆくまで歩いたな。

あの宿も

ずっと後になって

若い子たちが

冷房がないだの

トイレがどうのと

文句を言い出して

おかみは

宿を貸す気にも

なれなくなった

のだろうな。

会津八一やその他

無数の熱き思いの

浸み込んだ

あの古い

畳の部屋の

宿ーー

二度と戻らぬ

青春と同じ

哀切の

あの宿ーー

朽ち果てて

しまうのだろうか。



80歳を越えた

老婆のように・・・

唇にそっと

のぼせてみる

「ひよしかん」と。