大文字山の魔女
若い日のことです
近くの大文字山によくでかけていました
大の字を真正面に見上げる中腹の小道に
三つに枝分かれした木があって
ちょうど椅子のように腰掛けられる
ので・・・
私はここに腰掛けてゆったりと
大の字を見上げておりました
そこへ麓から少年たちが5、6人
わんぱく大将を先頭に駆け上がってきた
のはいいのですが
子どもたち
私を見かけると
はた、と立ち止まって
しまったのです。
私は黒いオーバーコートを着ていて
長い髪をしていたし
孤独な感じをいっぱい溢れさせていた
と
思います・・・
少年たちは数十秒立ち止まって
気味悪そうにこちらを窺っていましたが
先頭の少年がいきなり
駆け出して
私の前をさぁっと走り過ぎた
と見ると
続いて他の子たちもいっさんに
疾風のごとく駆け抜けていきました・・・
あの少年たちも今はもう70歳を
越えたおじいさんになっていることでしょう
そして孫たちに
「昔、大文字山に魔女がいた」
と語り聞かせているに
違いありません。
遠い日のまぶしい思い出・・・